from3.5次元to浄土
俺と音盤の対峙一部始終。(text=色即zk)

vol.4

hazel/the red krayola
まるまる一日をだいなしにしてしまいながら万年床から一歩として外に出ることがなくとも人は生きていくことができる。目と鼻の先にぶら下げられた女や金やあるいは男といったありとあらゆるチャンスをみすみす逃がしつつ自分専用の妄想の中で暮らす毎日にも胸をしめつけて離さない恋心というものはたしかにある。「ダメな人」と誰かに言われるのを夢想することからも甘い気分を味わえてしまうような能力を最大限に評価すべし。一生を棒にふっているのではなく、一生を捧げて生きるという生き方にこそ真の尊さや美しさはあると知れ。メイヨ・トンプソン=レッド・クレイオラの30年以上にも及ぶ活動の歴史は夢を見つつ生きることを許そうとはしない現実の社会に対する抵抗の歴史である。誰からもスポイルされることなく現役であり続けるテクニックの総体という意味においては奇跡的なしなやかさを我々に教示しているものだ。またこのアルバムに収められた1曲目を聴いた途端、ガクリと崩れ落ち、目には涙が溢れていたという人も少なくはない。誰しもどうしようもないと思われる日常から救われたがる権利は守られてよい。このアルバムには世界中の「ダメさ」や「情けなさ」や「甘い」想いを励まし合い慰める連帯と茲愛が詰まっている。まさにアシッド・フォーク化した観音なり。
旅路ニ季節ガ燃エ落チル/eastern youth
ともすると人は自分ではそうと気が付かぬうちに評論家になりたがる困りものなのだが、本作を聴いてなお評論してしまうような連中は信用ができぬと俺は常々考えている。普段ご立派な意見や見解を披露している奴にかぎって、いざというとき腰抜けになってしまうという亊態はままあることだし、物事の本質とはそう安々と「語られ」てしまうようなものでもない。イースタン・ユースの最新作かつメジャー・デビュー作である本作においても吉野寿の歌唱には強力なアクが変わらず健在である。声から感じ取られる体臭のキツさはそいつの正直さを示すものだ。「無臭」の奴らにはうんざりさせられることも多く本当にいい迷惑なのだが、それだけにイースタン・ユースが高校生男子のカリスマとして熱狂的に支持されているという事実にはほっとさせられたりもする。傷は深く重いが、また「負け」もあり得ない。人呼んで「泣きコア」。
ali-khadir/twigy
珍獣或は幻獣と呼ばれる生物がこの世のどこかに変わらずに棲息し続けているということは確かな真実である。この世からそういった生物が忽然と姿を消してしまったかに思われるというのは、むしろそれを見る人間の能力の低下を示しているに過ぎぬことこそ肝に銘じておくべきだ。科学や文明が進歩・進化し続けているという現状は、一体どれほどの人に恩恵をもたらしているというのか? 少なくとも俺にとって「不必要」と思われる身勝手な進化の多くは日々の頭痛の夕ネに過ぎぬ場合があまりにも多く本当にあきれる。いわゆる近代文明がこの世から闇を消し去ろうとするものである一方、今も獣はその闇の中に棲息し続けているということを忘れるな。獣は常に闇の中に在り、時に踊り出て我々に不意打ちを食らわす。 twigyの正体をつかもうとすることは闇を荒らし、暴きたてることに等しい。このアルバムは我々に食らわせられた不意打ちであり、まさに日本ヒップ・ホップ界の至宝である。国宝級のフロウ。掛け値一切ナシ。
mosaic/altered states
何度でも何度でもくり返し、くり返すつもりが俺には十二分にあるのだが、アルタード・ステイツ等を聴くにつけ、俺が心底感じてしまうこととは「日本のアンダーグラウンド・シーンは明らかに世界一である」ということにやはり尽きてしまうのだ。ギター、べース、ドラムスによる全く同様、同傾向な3人編成のインプロ・ロック・バンドであるマサカーの新作が18年ぶりということもあり大いに絶賛されているということもまた喜ばしいには違いないのだが、我々日本国が誇るアルタード・ステイツほどのインプロ濃度や、面白味を持つには至ってはいないということには、俺はある種じつに象徴的な側面を見る思いすらした。で、改めて94年に出された本作を聴き比べてみたのだが、こりゃ勝てませんわ、誰も。セシル・テイラーからキング・クリムゾンまで実に軽々と網羅されるどころか、はっきり越えちゃってます。クリムゾン崇拝者の皆さんは宗旨変えを迫まられますよ。本作には実に多岐に渡るゲストも多勢参加。エクストリームというよりむ しろ面白音楽と呼びたいユーモアもありまくる大豪華盤。現時点では間違いなく最高傑作fromゴッド・マウンテンである。
mos def and talib kweli are black star
どうしてもついつい、東産のヒップ・ホップを贔屓にしてしまう俺ではあるが、またそれはここ日本国におけるヒップ・ホップ愛好者全般についても言える傾向であるとも思えたりするのだが、それにしてもそれにしてもロウカス一派の志しには本当に本当に感動的な力強さというものが漲っているのだ、漲っているのだこんなに。98年、今や絶対信頼の地下銘柄ロウカス大躍進の立役者であるモス・デフとクウェリの2人が結成したブラック・スターがまさにその名に恥じぬ偉業を成し遂げんとする者達であることは本作のリリックにコルトレーンばかりかナイーマ(コルトレーン妻)の名さえ歌い込まれていることからも明白である。本作は20世紀黒人音楽の総括としても聞くことができるのだが、それはむしろこのアルバムを手にする者の全てがしっかりと受け止めなければならぬ歴史の真相のひとつが語られているということでもある。B-boyismとは大志や大望の別名であることを圧倒的な力量で思い知らされる。本作こそ90年代ヒップ・ホップ最大の収穫にして愛と正義と真実の名盤。とにかく聴け。

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